虚偽報道
虚偽報道の説明
虚偽報道(きょぎほうどう)は、マスコミ等において故意に事実と異なる情報を報道すること。虚報、捏造報道ともいう。
従来、誤報の文脈で語られることが多かったが、誤報が過失によるものであるのに対し、虚偽報道ないし虚報は故意に行われるものである。
新聞における虚偽報道
新聞における虚偽報道の事例をいくつか挙げる。新聞などの活字系メディアは、いわゆる「筆先三寸」(「舌先三寸」の洒落)で虚偽報道が可能なので、テレビの出演者を巻き込んでの大掛かりな「やらせ」を伴う虚偽報道に対し、比較的単純である。ここでは代表的な虚偽報道事件をあげるが、過去に多くの新聞社で虚偽報道事件が発生している(各社での事件は各社の項目「疑義が持たれた報道、スキャンダル」の節を参照)。
テレビの虚偽報道
コメントやテロップによる虚偽報道
テレビにおける虚偽報道はいわゆるやらせと密接な関係を持つことが多い。映像・音声(カメラ、マイク、場合によっては照明など)を伴うテレビにおいては新聞、雑誌のような活字メディアより手の込んだ手段、いわゆるやらせ(出演者による演技)を伴う場合が多く、また、出演者が絡まなくとも制作者が介入して「いい絵」を撮るために現場の状況に手を加える場合があり(例:後述の「ムスタン」の流砂の例)、状況が複雑である。
まず新聞や雑誌などと同様な単純な虚偽報道として「虚偽コメント(ナレーション)」「虚偽テロップ」がある。これはいわゆる「やらせ」にはあたらない虚偽報道である。例えば1992年にNHKで放映された『NHKスペシャル』「奥ヒマラヤ禁断の王国・ムスタン」[6]の事例では、取材中、少年僧が雨乞いの祈りをするのだが、わずかな量の雨が降ったにもかかわらず、「少年僧の願いもむなしく、雨は一滴も降らなかった」とコメント(ナレーションでの解説)を付けている。これは調査報告書でも虚偽であったとされた。
これとは別に、NHKの「ムスタン調査報告書」では問題が無いとされたが、番組内ではあたかも「ムスタン」が独立王国であるかのようにコメント・編集されていた件もある。実際には「ネパール王国(当時)」の一部であった。これを虚偽コメントとする見方もある。
いわゆる「やらせ」による虚偽報道
ジャーナリストのばばこういちは「やらせ」を分類し、「単純再現」「悪質再現」「捏造」を挙げている。ばばは「単純再現」は許され、「悪質再現」は許されないとのスタンスを取っているが、「単純再現」と「悪質再現」の線引きは難しい。
「ムスタン」では高山病にかかったスタッフが回復後にディレクターの指示で高山病の演技をしたが、ディレクターはスタッフにもっと大げさに苦しむ演技を要求したという。これは「単純再現」と見る見方もあるかもしれないが、事実の再現にあたっては誇張や歪曲をせず、出来るだけ正確にすべきという観点からすれば「悪質再現」と見ることも出来る。
また、故意に流砂現象を引き起こしたとされる件もあったが、これは厳密に言うとやらせを伴わない再現行為であり、許されるかどうか微妙なところである。
「捏造」を伴うやらせが虚偽報道であることは論を俟たない。「ムスタン」で言えば小学校の理科の授業として「山羊の解剖」を行なったケースがそれである。この小学校では日常的にそのようなことは行なわれていないため、再現行為には当たらず、「捏造」であることが明らかになっている。
映像・音声の編集による虚偽報道
テレビでは撮影された映像をそのまま放送するわけではない。撮影してきた映像の中から必要な部分だけ切り取り、他の多くの映像とつないで編集する。例えばインタビューの場合、前提条件の部分をカットし、結論の部分だけ放送するなども行なわれ、発言者の真意が歪曲され、時には反対の意味で報道されることがある。
また、インタビューでなくても、関係のない映像を編集してつなぐことにより視聴者に一定の意味を伝えることができる(モンタージュ)ので、非言語的な虚偽報道も可能である。
その他のメディアにおける虚偽報道
ドキュメンタリー映画
ドキュメンタリー映画やビデオにおいてもテレビと同様に映像と音声の問題を抱えている。例えば初期のドキュメンタリー映画の名作とされるフラハティー監督の『アラン』はアイルランドのアラン島に生きる人々の過酷な生活を記録したものだが、撮影時より50年も前の島の生活の再現が入っているという[7]テレビのやらせの原点はドキュメンタリー映画にすでに潜んでいたわけである。
また、レニ・リーフェンシュタール監督のベルリンオリンピックの記録映画『オリンピア』や、市川崑監督の『東京オリンピック』にも再現映像があるという。実際のオリンピック競技の映像のほかに選手に競技を「やらせ」て撮影し放映したのである。芸術的な映像を追求するために事実性を犠牲にしたわけである[7]。例えば、『オリンピア』での西田修平と大江季雄の棒高跳の対決(俗に「友情のメダル」と称す)は再現映像である。
ラジオ
ラジオでは最近は虚偽報道が表面化することは必ずしも多くはないが、音声を扱っていることから、単純な虚偽コメントだけでなく、出演者を巻き込んで演技させるいわゆる「やらせ」による虚偽報道が行なわれている可能性を指摘する者もいる。音声は映像よりはるかに加工しやすく、編集した跡が映像と違って分からないという特性もある。また擬音を用いることもできる。映像の拘束を受けずに細かい編集も簡単なので、編集による虚偽報道はきわめて容易である。マイナーなメディアなので表面化しにくいので、問題化されにくいが、ラジオに虚偽報道がないと信じることは早計である。
インターネットがらみの虚偽報道
また、近年ではインターネットとテレビや映画などのメディアを融合させたメディアミックス型の演出も多用されるようになってきているが、一部においては「やらせ」ではないかという疑惑も持たれている。たとえば、映画「ノロイ」では、登場する架空のジャーナリスト小林雅文のホームページや小林のファンのブログなどが実際にインターネット上で閲覧できるようになっている。このケースでは、映画そのものがフィクションであることは容易に想像がつくため、インターネット上でのページ開設も映画のリアリティを増すための演出としてとらえることが出来る。
一方、2009年1月10日にテレビ朝日系列で放送された「情報整理バラエティー ウソバスター!」の「ネットの情報が本当であるかを検証する」という趣旨のコーナーは、複数のブログの記述にウソが書かれていることを検証する内容であったが、これが捏造ではないかという疑惑が持たれている[1]。この放送の趣旨は番組タイトルからもわかるように「ウソ情報を撃退する」というものであり、視聴者は放送内容が事実に基づいていると認識してしまうため、番組内で紹介されたブログがスタッフの作ったものであれば悪質な捏造報道ととらえることが出来る。
エイプリルフール報道 英国放送協会BBCは、かつて朝夕に日本向けに短波ラジオで日本語放送を行っており、毎年4月1日にはエイプリルフールのニュースも放送していた。1980年に「ビッグ・ベンの時計がデジタル表示化され、針が不要になったので聴取者のみなさんにプレゼントします」と放送したところ、日本から真に受けた聴取者から問い合わせが相次いだ。故意ではあるが、悪意のないユーモアに基づいた報道により、視聴者が騙されることになった。ちなみに「ビッグ・ベンのデジタル時計化」は、2008年にも英デイリー・エクスプレス紙がエイプリルフール・ニュースとして掲載した。 テレビのエイプリルフールのジョーク番組としては「第三の選択(Alternative 3)」(製作英・アングリアTV)が、現在に至るまで影響を与えている。詳細はアポロ計画陰謀論の項を参照。
虚偽報道の背景
根本的な理由としては、記者・ディレクターや取材チームが取材を開始する以前に、記事に対する評価の期待値を計算し、自分なりの見通しや願望を立てていることがある。特にドキュメンタリー番組・映画などでは撮影以前に企画者がシナリオを作成している事が当たり前である。取材・撮影の進展によって予想外の事態が発生したり、思わぬ事実、さらには自分の理想・思想と相反する実態が判明することも、当然多々起き得るものである。取材者・企画者がそれを受け入れて、自分で組み上げた見通しやシナリオを、取材した事実に沿って修正する事ができるならば虚偽にはならない。だが、当初のままで押し進め、映像やコメントを自らの意図に沿う形に編集したり、取材対象者に自身の発言ではなく取材陣の求める内容の発言をさせるなどして、事実を歪めれば虚偽報道に陥る。
また、報道機関により、虚偽報道に関与した社員に対する処分にはかなりの差がみられる。解雇という厳罰で臨む社もあれば、口頭での「厳重注意」処分程度で済ませる社もあり、その企業体質も強く関連すると見られる。
組織ぐるみの虚偽報道・国家レベルの虚偽報道
一方で記者個人のみに一切の責任があるとし、校正を行うべき編集者や責任者たるメディアの反省がなされないため、体質改善が出来ずに虚偽報道が続くとの批判がある。逆に徹底した原因究明と明確な謝罪を行ったワシントン・ポストはむしろ評判をあげた。
かつての日本の第二次世界大戦中の大本営発表や、戦後の占領下でのGHQによる言論統制下に於ける報道ではあえて事実を改変した報道が行われた。また、中国・北朝鮮やミャンマー・中東諸国などの独裁国家のメディア、自由主義国であってもイラク戦争におけるアメリカ合衆国の対外発表のように、現在でも国家レベルで虚偽報道がなされる例もある。
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